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仙台高等裁判所 昭和31年(ネ)308号 判決 1957年3月15日

控訴人 国

被控訴人 吉水源三郎

主文

本件控訴を棄却する。

原判決末尾記載の土地の表示中、下閉伊郡田老町大字乙部第十一地割字重津部上百三十四番一、畑二畝十三歩とあるのを、下閉伊郡田老町大字乙部第十一地割字青野滝上百三十四番一、宅地六十一坪と、同上同字百三十五番一、畑二畝一歩とあるを下閉伊郡田老町大字乙部第十一地割字青野滝上百三十五番一、畑二畝一歩と各変更する。

控訴費用は控訴人国の負担とする。

事実

控訴指定代理人等は「原判決中控訴人国敗訴の部分を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、援用、認否は、被控訴代理人に於て、「原判決末尾記載の本件土地の表示中、下閉伊郡田老町大字乙部第十一地割字重津部上百三十四番とあるを同郡同町大字乙部第十一地割字青野滝上百三十四番と、畑二畝十三歩とあるを宅地六十一坪と、同上同字百三十五番とあるを同郡同町乙部第十一地割字青野滝上百三十五番とそれぞれ登記簿に記載された通りに訂正する。控訴人国の後記主張事実中被控訴人の主張に反する点は否認する。」と述べ、控訴指定代理人等に於て、「本件土地は亡吉水竹松の絶家財産として親族の保管に付されたが、絶家後五年を経過した後に於ても親族による協議も官没もなされていないのであるから民法施行法第九十二条及び昭和二十二年法律第二二二号による改正前の民法第千五十一条の規定により民法施行の日から法人たる相続財産となり現在に至つているものであつて、未だ国庫に帰属していない。したがつて控訴人国は本訴の当事者適格を有しないから、本訴請求は不適法にして却下さるべきである。控訴人国は本件土地について何等の権利を主張せず又被控訴人の本件土地に対する使用収益を妨げているものでないから、被控訴人は控訴人国に対し本件土地の所有権の確認を求める利益がない。故に此の点に関する被控訴人の請求は不適法であつて却下を免がれない。又本件土地は前記の如く法人たる相続財産に属するものであり、控訴人国は登記簿上に於ても所有名義を有していないから、控訴人国に対し移転登記を求めるのは失当である。被控訴人の前記表示の訂正には異議がない。」と述べた外は、すべて原判決摘示の通りであるから、ここに之を引用する。

理由

本件訴訟は、当初被控訴人より、吉水竹松相続財産及び控訴人国を被告とし、右両名に対し別紙目録記載の土地の所有権確認及び吉水竹松相続財産に対し同土地の所有権移転登記手続を求め、右所有権移転登記手続請求が理由がないとき予備的に控訴人国に対しその所有権移転登記手続を求めるものであるところ、原審において、吉水竹松相続財産と控訴人国に対する訴訟が分離せられ、前者については、原審において被控訴人の訴が却下され、被控訴人より当庁に控訴したところ、第一民事部において、昭和三十年十月六日後記判断と同じく吉水竹松の相続財産という法人は存在しないとの理由によつて、原判決を支持し被控訴人の控訴を棄却する旨の判決がなされ、右判決は確定するに至つたことは、本件訴訟の経過及び成立に争のない甲第七、八号証によつて明かである。

よつて、控訴人国に対する請求につき案ずるに、

本件土地すなわち別紙目録記載の各土地がもと吉水竹松の所有であつたが同人は明治二十年十一月五日死亡したことは当事者間に争いがない。被控訴人は、被控訴人の曽祖父吉水源三郎は右竹松の生前同人より本件土地の贈与を受けた旨主張するけれども、原審に於ける被控訴人本人尋問の結果中右主張に符合する部分は措信し難く他に右主張を認めるに足る証拠はない。

次に右竹松は死亡の当時単身戸主であつたこと、同人死亡の日より満六ケ月以内に相続人の届出でがなかつたので右吉水竹松の家は明治二十一年五月五日絶家となつたことは当事者間に争がなく、右絶家は明治十七年太政官布告第二十号によるものであることは明らかである。そして右絶家当時の法令によると絶家の財産は五ケ年間親族又は戸長に於て保管し右年限後は親族の協議に任じ然らざるものは官没すべきものとされていたところ(大審院大正九年(オ)第五五〇号大正十年三月八日判決参照)、右絶家後五年を経過した後に於て右竹松の親族間に本件土地につき協議がなされず又官没もされなかつたことも当事者間に争いがないから、本件土地は民法施行当時無主の不動産となつていたものというべく、したがつて民法施行と同時に同法第二百三十九条第二項の規定により国庫の所有に帰したものと認めるべきである。右と所見を異にし本件土地は民法施行法第九十二条及び昭和二十二年法律第二二二号による改正前の民法第千五十一条の規定により民法施行のときより法人たる相続財産として存続しているものとなす控訴人国の主張は採用できない。(かく解すると民法施行法第九十二条は適用の余地がない如くであるが、少くも単身戸主が死亡してより民法施行のときまで六ケ月を経過せず絶家とならない場合になお適用の余地がある)。

しかして成立に争いなき甲第一号証、同第三、第四号証、同第六号証の各記載及び原審に於ける証人福徳長兵ヱの証言、被控訴人本人尋問の結果を綜合すると被控訴人家は前記吉水竹松家の本家に当るところより右竹松の家が前記の如く絶家となつたので、被控訴人の祖父吉水要作は明治二十五年頃本件土地を自己の所有として税務署等に届出で爾来本件土地に対する公租公課を自己の名を以て納入するなど所有の意思を以て之を占有していたこと及び同人は大正六年三月六日隠居した結果、その養子で被控訴人の父である吉水彦太郎に於て家督相続により本件土地に対する右要作の占有を承継し昭和十六年五月一日死亡するまで之を占有していたことを認め得べく右に反する証拠はない。そして他に反対の証拠のない本件に於ては右各占有は平穏且つ公然になされていたものとなすべきである。したがつて彦太郎は民法施行の日である明治三十一年七月十六日以降の右要作の占有を併せて二十年を経過した大正七年七月十六日本件土地の所有権を時効により取得したものとなすべきである。控訴人国は被控訴人の曽祖父吉水源三郎は前記竹松の遺産管理人として本件土地を占有していたものであるから右源三郎の占有を相続した右要作の占有は自主占有でないと主張し、前記甲第四、第五号証、成立に争いなき乙第一号証の一、二の各記載によれば、被控訴人の曽祖父吉水源三郎は明治二十一年二月二十一日前記竹松の遺産管理人に選任せられたこと及び右源三郎は明治三十四年四月三日隠居し右要作に於て家督相続したこと明らかである。しかし右要作の本件土地の占有は右源三郎の占有を承継したものではなく家督相続前である明治二十五年頃より自己の権限により原始的に取得したものに係ることは既に認定したところにより明らかであるから、控訴人国の右主張は採用しない。そして前記甲第三号証の記載によれば、右彦太郎は昭和十六年五月十日死亡し被控訴人に於て家督相続をしたことを認め得るから、被控訴人は本件土地の所有権を取得したこと明白である。

そうすると、控訴人国に於て本件土地が被控訴人の所有であることを争つている本件に於ては、被控訴人は控訴人国に対し本件土地が被控訴人の所有なることの確認を求める利益を有するから、控訴人国に対し之が確認を求める被控訴人の請求は正当にして之を認容すべきである。控訴人国は、本件土地につき所有権を主張せず又本件土地に対する被控訴人の使用収益を妨害していないから、被控訴人は確認の利益を有しない旨主張するけれども、控訴人国に於て被控訴人の本件土地の所有権を争う以上、被控訴人は之が確認を求める利益を有するものとなすべきであつて、右主張は排斥する。右と同趣旨にでた原判決の判断は相当である。

次に控訴人国に対する本件土地の所有権移転登記請求につき案ずるに、控訴人国は本件土地につき登記簿上所有名義を有しないから移転登記手続に応ずる義務がない旨主張するけれども、控訴人国は前記の如く民法施行と同時に本件土地の所有権を取得したものであるから、その後に於て控訴人国所有の本件土地の所有権を時効により取得した右彦太郎に対し、本件土地につき所有権取得登記を経由したうえ所有権移転登記手続をなすべき義務があることは明かである。されば被控訴人は彦太郎の家督相続人として、控訴人国に対する右彦太郎の所有権移転登記請求権をも相続したものというべきであるから、控訴人国に対し本件土地につき右彦太郎名義に所有権移転登記手続を命じた原判決は相当である。(本訴に於て被控訴人は控訴人国に対し直接自己名義に所有権移転登記手続を求めているのであるから、原判決が右の如く右彦太郎名義に所有権移転登記手続をなすべきものと認めたのは失当の嫌なしとしないが、此の点については被控訴人より控訴の提起なく且つ原判決は被控訴人の右請求の趣旨に包含せられ、その範囲を超えるものとは解せられないから、原判決は結局相当であつて取消すべきではない)。

以上により控訴人国の本件控訴は理由がないから、之を棄却すべきものとし、なお、被控訴人は当審において本件土地中一部その表示を更正したので主文においてこれを明かにすべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 石井義彦 上野正秋 兼築義春)

目録

(一) 岩手県下閉伊郡田老町大字乙部第十一地割字青野滝上百三十四番

一、宅地 六十一坪

(二) 同県同郡同町大字乙部第十一地割字青野滝上百三十五番

一、畑 二畝一歩

(三) 同県同郡同町大字乙部第十二地割字青野滝三十一番

一、畑 七畝二十七歩

(四) 同所四十七番

一、畑 八畝二十八歩

(五) 同所六十八番

一、畑 七畝五歩

(六) 同所六十六番

一、畑 五畝二十三歩

(七) 同所六十七番

一、畑 十八歩

(八) 同所九十三番

一、畑 六畝五歩

(九) 同所百八番の二

一、山林 二反九畝十四歩

(一〇) 同県同郡同町大字乙部第十三地割字青野滝二番の三

一、山林 三町二反七畝十歩

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